あるシステム開発プロジェクトにPM支援として参画した際、遅延の理由をプロジェクトマネージャーに聞いたところ、「メンバーからの報告が遅いし、アラートもあげてくれないんですよ」と。
確かに、よくある話ですが、これではプロジェクトマネージャーとして役割を果たしておらず、ましてやプロジェクトメンバーのせいにするのは職務怠慢と言わざるを得ません。
システム開発プロジェクトにおける進捗管理の基本は、立てた計画に対して予定通り作業を進めているかということの把握です。当然、プロジェクトメンバーの突然の離脱や情報漏洩インシデントやハラスメント等による計画外の作業が発生することもありますが、想定外の事も含めて、悪い報告であればあるほどタイムリーな報告が大事です。
では、タイムリーに報告してもらうために、プロジェクトマネージャーはどうすればよいのでしょうか?
システム開発プロジェクトにおける上下関係に限らず、どのような会社の上司部下の関係性にも当てはまることと思います。
かんたんイラスト(記事を読む時間のない人へ)
ピラミッド体制の意義
そもそも報告は誰から誰へという決まり事に基づくものです。10人以下のプロジェクトであれば、プロジェクトマネージャーひとりで全員の作業状況を把握することはできますが、数十人数百人となってくると、ひとりで把握することは困難です。そのために、階層化された体制を構築し、プロジェクトマネージャーの下に数名のチームリーダーを配置し、そのチームリーダーの下にメンバーを配置する構成を取ります。このような体制のもとでは、プロジェクトメンバーの管理はチームリーダーの仕事となり、プロジェクトマネージャーはチームリーダーから進捗状況を報告してもらい、プロジェクト全体の状況を把握することになります。システム開発プロジェクトにおいてピラミッド型の体制を構築する意義は、一人では詳細把握が困難なことも、階層化された複数人が分担して把握し、その複数人から状況を報告してもらうことで、トップが全体の状況を把握できることです。そして、この階層化された体制こそが、誰から誰に報告するというレポートラインを決めているのです。
ただ階層化したからといって、待っているだけでは希望通りに報告が上がってくるわけではありませんし、報告を受けるための進捗会議などプロセスを定義しますが、それでも、タイムリーな報告を受けることが難しいこともあります。
なぜ、タイムリーな報告がもらえないか
定例会などプロセスがきっちりと定義されているにもかかわらず、タイムリーな報告がもらえない理由は2つ考えられます。その大前提にあるのは、お互い人間だからであり、人間である以上、いくらルールを決めたとしても機械のようには動くことは不可能です。
1.価値観の違い
一つ目は価値観の違いです。報告を受ける人と報告をする人が、まったく同じ価値観を持っているなどは幻想でしかありません。
例えば、緊急事態も人によって捉え方は違うでしょう。1時間の遅延を遅れと捉える人もいれば、誤差と思って予定通りと考える人もいます。1ヶ月の作業で1時間遅れであれば誤差かもしれませんが、8時間の作業で1時間遅れは大きな遅延かもしれません。まさにこの線引きの感覚は人それぞれなのです。
2.気持ちの問題
これまでにいくつかのプロジェクトで何度か報告をして、怒られた経験をしている人は、報告自体を億劫に思っています。悪い報告をした時の反応は、人によって違いますが、過去の経験から報告をネガティブなものと捉えて、ハードルが上がってしまっている人もいて、そうした人は、報告のタイムリーさが損なわれます。
報告したいと思わせる「3つの振舞い」
価値観の違いについては、お互いで合わせるしかありません。上司の価値観で動きたいのであれば、報告を待っているのではなくて、上司側から能動的に確認しにいく対応をとることも必要です。もう一つの気持ちの問題を解消するには、報告を受ける側の振舞いにかかっています。そもそも悪い報告を喜んでする人はあまりいないですし、悪い報告それ自体が億劫なことなので、いかにその億劫さを緩和できかが肝なのです。
本章では、チームリーダーから報告を受けるプロジェクトマネージャーを例として、報告を受ける時の振舞いについて3つ伝授します。
あなたがチームリーダーであれば、チームメンバーから報告を受ける時でも同様に使える振舞いなので、ぜひ参考にして欲しいです。
1.「報告損」と思わせない
もし進捗報告会でチームリーダーから遅延の報告を受けたとき、どんなリアクションをしますか?
ありがちなのが、「なんでこんなことになったの!?」「どうして遅れちゃったの!?」と、矢継ぎ早に追求していくパターン。さらに間髪入れず、「どうするつもりなの?」「どうやってリカバリーするの?」と詰め寄るプロジェクトマネージャーを、これまで何人も見てきました。このように言われると、多少の遅延や悪い報告であれば、面倒だから黙っておこうと考える人がいてもおかしくありません。まさに悪い報告をすることのハードルが上がってしまった状態です。チームリーダーにこの気持ちを持たれてしまったら、今後タイムリーな報告をもらえないかもしれません。
遅延の報告を受けたら、まず「正直に報告してくれて、ありがとう!」これを言えたら格好いいですし、悪い報告をする側も救われる気持ちになるはずです。そのうえで、叱らずに「どれくらいの遅れか」「後続タスクへの影響は何か」など状況を正しく把握することが大事です。なによりも、チームリーダーに「報告損」と思われたら終わりです。
2.対応策を一緒に考える
上に立つ立場として、悪い報告を受けたときにその原因を聞くのは当然ですが、そもそもなぜ原因を聞くかというと、原因により対応が変わってくる場合があるからです。遅れの原因を聞いたにもかかわらず、対応策について相談しても答えないプロジェクトマネージャーには、原因を伝えてもさほど意味はありません。そんなプロジェクトマネージャーは無能な人とチームリーダーから思われても仕方ありません。
原因を聞くからには、対応策の答えを持っておかないといけませんし、対応策そのものではなくても、対応策の候補、あるいは解決のヒントでも良いです。何等かの対応策のヒントを与え、チームリーダーと一緒になって対応を考えていくことが大切です。
このようにヒントをもらえ、対応を共に考え「一緒にやっている感」を感じてもらうことは、まさに相談役といった関係性となり、次に新たなトラブルが起こったときに速やかに報告を上げてもらうことに繋がります。
3.チーム内で解決できるかプロジェクトレベルの対応が必要かの線引き
いくら優秀なチームリーダーだとしても、チームとして取り得る対応には限界はあります。
もはやプロジェクトレベルの対応が必要なのに、ひとりのチームリーダーが対応を模索して時間と工数を取られるのは、プロジェクトとして非効率です。ただ、どういう場合に、プロジェクトレベルでの対応が必要かわかっていないチームリーダーも多いと思うので、遅延の報告を受けたら、それはチーム内で解決を図ることか、プロジェクトレベルでの対応が必要か、その都度、プロジェクトマネージャーとしての見解を伝えるべきです。
遅延の報告に対して、まずはチーム内で解決に向けた取り組みを行うが、それでも駄目な場合は、段階的にプロジェクトレベルの対応に昇華させるやり方も有りです。
例えば、3日後に状況を確認し改善していない場合や、翌週の進捗報告で遅延の規模が拡大している場合など、ある程度の基準を示しつつ、その段階でプロジェクトレベルの対応に切り替えることをプロジェクトマネージャーとして判断しなければいけません。
このように、チームリーダーが、チームとしての対応が出来るか、プロジェクトレベルの対応が必要なレベルかの境界線を知ることで、何か問題が起こった際に、「これはチーム内で解決に限界があるかもしれません」など悪い報告の事前相談として、タイムリーに状況を聞くことができるようになります。
まとめ
繰り返しになりますが、プロジェクトマネージャーとして報告損と思われたら終わりです。
「どうして?」「どうするつもり?」と追求することがプロジェクトマネージャーの仕事だと勘違いしていると、大変な結果につながります。価値観が違うことは当たり前のこととして、人間なのだから、気持ちが行動に現れることも理解して、悪い報告に対する振舞いを気にして欲しいと思います。プロジェクトマネージャーの振舞いは、チームリーダーの能力を引き上げ、将来の優秀なプロジェクトマネージャーになることに繋がると思います。
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