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優秀な人ほど辞めていく?|キーパーソン離脱のリスクと対策5つ

システム開発プロジェクトにおいて困ることの一つが、メンバーの離脱です。特にチームリーダーやエース級のエンジニアが離脱すると、プロジェクトのQCD全てに影響を及ぼすため、プロジェクトマネージャーにとっては頭の痛い問題です。
日本のプロ野球でもFA宣言によりチームを離れる選手は能力が高く、サッカーのJリーグでも優秀な選手ほど海外移籍をすることが多いと思います。このような移籍はシーズン終了時であれば、チームへの影響はまだ小さいですが、それでも3ヵ年でチームを強くしていく計画の途中であれば計画の見直しは必要となります。また怪我による戦線離脱はシーズン途中でも起こり得る事で、その場合の影響はより大きいものとなるため、各ポジションにサブのメンバーを確保したり、フォーメーションにバリエーションを持たせたり、ある程度、離脱によるリスク対策は取られていると思います。
システム開発プロジェクトにおいてもメンバーの離脱は、もはや想定外の出来事ではなく、リスクとして管理しておくことが当たり前になっていますが、プロスポーツのように控え選手を確保しておく余裕はないので、打てる対策は簡単ではありません。そこで今回の記事では、キーパーソン離脱によるプロジェクトへの影響とリスクを抑える方法をご紹介します。

かんたんイラスト(記事を読む時間のない人へ)

プロジェクトメンバー離脱による影響

システム開発の途中でプロジェクトメンバーが離脱する事態は十分に考えられます。病気・怪我・退職・人間関係の悪化など仕方ない場合もあれば、「プロジェクトに飽きた」「やっている内容が好きじゃない」「進みたい方向性と違う」など自己都合の場合もあり、メンバーが離脱する要因は様々です。いずれにしても、メンバー離脱はプロジェクトのQCD全てに影響を及ぼします。
・進捗遅延
プロジェクトメンバーが離脱すると、そのメンバーが受け持っていた領域を引き継ぐ交代要員が必要となりますが、システム開発プロジェクトでは、控えのメンバーを確保しておくことはあり得ないので、交代要員が入るまでは完全な欠員となります。その欠員分を既存メンバーで補うことが必要ですが、既存メンバーでカバーできなければ即座に遅延となってしまいます。また交代要員がプロジェクトに参画したとしても、プロジェクトのやり方や担当領域の引き継ぎ等を行わないとならず、この引継ぎ期間も含めた交代要員が独り立ちするまでの間は、既存メンバーのフォローも発生することとなり、特にキーパーソンの離脱の場合は、プロジェクト全体進捗への影響が長く続きます。
・品質低下
エース級のエンジニアが離脱する場合は、そのエンジニアしか把握していないことなどもあり、品質低下の懸念があります。離脱するメンバーが受け持っていた領域の知識やノウハウを後任や代替メンバーへ引き継ぎを行うものの、離脱者が優秀であればあるほど同じ品質を維持することは難しくなり、少なくとも離脱した瞬間から一定期間は確実に品質が下がると考えるべきです。
・追加費用
システム開発プロジェクトは、想定の要員計画に基づく費用をクライアントの予算として計上し、推進していくことが多いです。ですが、離脱に伴い発生する引継ぎ期間は、離脱するメンバーと交代要員が二重にいることとなり、その期間の交代要員の費用は、もともとの要員計画にはない想定外の追加費用となってしまいます。この追加費用は、プロジェクトの予備費があればそれで賄えることもありますが、予備費がない場合には、その瞬間は赤字となり、その後は苦しい財政の中でプロジェクトを進めることを余儀なくされるのです。追加費用の捻出をクライアントへ相談することも当然するべきですが、マネジメント力不足やリスク管理を怠ったとも言われかねず、簡単に受け入れてくれる話でもないのが現実です。

キーパーソン離脱のリスクを抑える5つの方法

システム開発プロジェクトにおいて、キーパーソン離脱のリスクは大きいですが、出来るだけその影響を抑える方法を5つご紹介します。

1.チームリーダー任命時の条件
プロジェクトの柱のひとつとなるチームリーダー離脱の影響は特に大きいです。主要なチームリーダーから突然の離脱を言われないための対策は、チームリーダー任命時にあります。それは、チームリーダーになる人に対して、「もし、プロジェクトを離れたい場合、それは後任を育ててからです」「チーム推進はもちろん、後任の育成もお願いします」という内容を任命時に伝えます。これを言われた本人は、後任の育成も役割のひとつとして考えてチーム運営をすることになりますし、任命時に約束したことで突然の離脱リスクも少しは軽減できると思います。
チームリーダー同様に、エース級のエンジニアを採用する場合にも、プロジェクト参画時に、システムリリースやテスト工程完了までいることなどの条件と若手を育てることも役割の一つとしてお願いする事が重要です。

2.チームメンバーのケア
昨今はリモートワークが当たり前となり音声のみでは顔色はわかりませんが、プロジェクトマネージャーは日頃からプロジェクトメンバーをよく見ておき、「顔色・声色が悪い」「元気がない」などメンバーの不調を直ちに察することが大事です。エンジニアの不調を感じとったら、必要に応じて1on1で話す機会をもつなどして、不調の原因を聞き改善に向けて動くことが大切です。大規模プロジェクトの場合は、メンバーとプロジェクトマネージャーの距離感は遠いですが、だからこそ一人ひとりを気にしてあげることで、メンバーは前向きになってくれます。昔、プロジェクトマネージャーをやっていて、当時そのプロジェクトの若手メンバーだった人に数年後に会った時、「あのプロジェクトは大変だったけど、いちメンバーである僕に体調は大丈夫かと声をかけてくれて、すごく嬉しかった」と言われたことがあります。このような些細なことの積み重ねと繰り返しが、リスクを低減してくれるのだと思います。

3.人材情報の収集
いくら日頃からメンバーのケアをしていても、突然離脱することはあります。システム開発プロジェクトではサブメンバーを確保しておく余裕はないので、人材を補強したい場合になるべくスピーディーにエンジニアを調達できるようにしておくことが必要です。そのためには、社内外を問わず人材情報には常にアンテナを張っておき、良い人材がいないか日頃から情報収集しておくことが大切です。社内であれば、人事権を持つ管理職とすぐに相談できる関係性を築いておくことも必要ですし、社外では、エンジニア派遣会社や開発ベンダーの営業と定期的に連絡をとるようにしておくことも大切です。

4.メンバーのマルチスキル化
突然キーパーソンが離脱した際、特定の領域を把握しているのがそのエンジニアだけだと非常に困ります。特定の個人に知識やノウハウが集中し、属人化しないように、メンバーのマルチスキル化を図ることが大切です。そのためには、プロジェクト内での定期的な役割のローテーションや、設計書などドキュメントのレビューにメンバー間のクロスレビューを組み込むなどが必要です。

5.引継ぎ費用の相談
キーパーソンが離脱するとなった場合、引継ぎにかかる想定外の費用が発生しますが、出来れば、その費用をクライアントに捻出してもらいたいです。そのためには、クライアントがキーパーソンの価値と能力を認識していることが必要となるので、キーパーソンとなる人は積極的にクライアントの前に出して、プロジェクトにおいて必須な人材であることを知っておいてもらうことが大切です。その上で、キーパーソンが離脱する際には、「優秀なあのエンジニアがプロジェクトを離れることになってしまいます」と離脱の事実を理由とともに正直にクライアントに伝えて、引継ぎ費用についても駄目元で相談しましょう。
エンジニアにとっても、クライアントに認識してもらい期待されることで、そもそも離脱したい気持ちを持たない可能性もあるので、クライアントへの露出を高めることを考えて損はないと思います。

優秀なエンジニアとは

優秀なエンジニアは、自分自身の成長やキャリアアップを最優先に考えがちで、その時々のプロジェクトへの影響は正直あまり関与したくない気持ちもわかります。ただ、真に優秀と認められるエンジニアは、自分自身だけでなく、プロジェクトの成長や後任の育成も役割のひとつとして考えられる人だと思います。かの小林一三も「自分の後釜を早く養成しろ、そうすれば自分は一段上に昇り得るのだ」という言葉を残しているように、後任を育成することで、より優秀なエンジニアとして存在価値が高まります。プロジェクトへの影響がなく離れることができるように、後任を育てることやドキュメントをしっかり残すことなどが出来る人こそが、一流のエンジニアと言えると思います。

まとめ

キーパーソン離脱は、システム開発に限らず様々な仕事において起こり得るリスクです。プロジェクトマネージャーとしては、もはや想定内の事態として、常日頃から然るべき行動をとっておくことが大切です。エンジニアにとっては、理由はどうであれ、離脱は少なからずプロジェクトに影響を及ぼすことを認識したうえで、せめて円満に離れる気持ちを持ってほしいと思いますし、そもそもプロジェクトへの影響がない状況を作ってから離れる一流のエンジニアを目指して欲しいと思います。意外と世の中は狭く、いつまた別のプロジェクトで一緒に働くことになるかはわかりません。

出典:柴田秀夫@ARAKADO※転載は筆者承諾済