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12年間も真剣に向き合ったコンサルティングファームの話 ~ ファームとSIerの違いとコンサルタントとPMの違い

アクセンチュアにそれなりに長く在籍して、コンサルティング案件から大規模システム開発まで様々なプロジェクトでPMを歴任して感じたこと、迷いつつも懸命に向き合った結果として気が付いたことがあります。
コンサルティングファームにいる全員が真のコンサルタントではありません。
システム開発プロジェクトにおいては、システムの設計者もいれば、プログラマーも、運用保守要員もいて世の中的なITエンジニアと変わりません。
では、コンサルティングファームとSIerとでは何が違うのでしょうか。
また、コンサルタントとシステム開発PMとでは何が違うのでしょうか。
アクセンチュア以前にいた日本のシステム開発会社と外資系ITベンチャーでの経験も踏まえて、ファームの特徴、求められる能力や生き残る術などについて書いていきます。

総合コンサルティングファームの組織

2000年から約12年間お世話になったアクセンチュアでは、その間に4回くらい大きな組織変更がありました。入った当時は日本で1,000名程度の社員だったのが、去る時には4,000名くらいに拡大し、今では16,000名にも莫大に増加しています。社員数の増大につれて組織が硬直化するかと思いきや、世の中の変化に合わせて簡単に組織変更してしまうことに、社員でありながらすごい会社だと思っていました。
アクセンチュアの組織構造は、インダストリーとサービスからなるマトリクス組織で、この構造は昔から大きく変わっていません。
インダストリーは、金融、通信、製造業などの業界のことで、サービスは、ストラテジー、コンサルティング、テクノロジー、オペレーションなどの簡単に言えば商材です。このインダストリーとサービスが、減ったり増えたり、統合されたり分割されたりして、数年に1度くらいの頻度で組織が変更されています。
当時からおそらく今も、ストラテジー(戦略)とオペレーション(運用保守とアウトソーシング)は明確な守備範囲がありましたが、コンサルティングとテクノロジーは、結構クロスオーバーして働くことが多かった印象です。最近では、社員数も爆発的に増えているので、明確に線引きされる傾向にあると思いますが、コンサルティングに所属する人がシステム開発プロジェクトにアサインされることもありますし、逆にテクノロジーの人が、コンサルティング案件に入ることもあります。
SI案件と呼ばれるシステム開発プロジェクトにアサインされると、世の中的なITエンジニアと同様に、若手はプログラマーやテスターとして、少しクラスが上がるとSEと同じように設計書を作ったり一つのチームリーダーを担ったり、マネージャー以上になるとPMとしてプロジェクトを切り盛りすることになり、大手SIerとやっていることは変わりません。

コンサルティングファームとSIerの違い

システム開発プロジェクトにおいては、総合コンサルティングファームとSIerとでやることに変わりはありません。アクセンチュアについて言えば、外資系で少数精鋭のコンサルティングファームだったという生い立ちからくる文化が、いまでも根強く、いや多少は残っていて、このファームの文化が日本のSIerとの違いと考えることが出来ると思います。日本のシステム開発会社と外資系ITベンチャーを経て入ったアクセンチュアで感じた特徴を5つ紹介します。


① コンサルマインド
入った当時に良く言われていた「バリューを出す」という言葉の意味は、クライアントの高い期待値を上回る成果を出すということです。四六時中言われるこの言葉の通り、ファームでは、アウトプットの質にこだわる傾向があり、それはコンサル案件だけでなく、SI案件でも要求されます。
コンサル案件では、事実と仮説をもとにロジカルにストーリーを組み立て、その上で無駄を削ぎ落した素敵で素晴らしいソリューションを分かりやすく示す資料を作ることを追求します。
SI案件でも同様に、緻密で網羅性に拘り、構造的で具体的かつ簡潔なドキュメンテーションが求められます。
つまり、どのような案件でも、所属や肩書にもよらず、分かりやすさを追求することが求められます。

若い人が資料の体裁やメッセージの言い回しを追求することに不満を持つことがありますが、超一流企業のプレスリリース資料が分かりやすいのと同様に、出来るだけ簡潔に正しく伝わるように考え抜いて資料を作ることがコンサルティングファームでは必要です。
理解するのに時間がかかる資料や説明しないと正しく伝わらない資料は、高いお金を払っているクライアントからすると、時間とお金の無駄と思われてしまうのです。
論理的思考力に基づく分かりやすさの追求というイズムが、コンサルティングファームに根付いていることは間違いありません。


② プロジェクトベースの働き方
コンサルティングファームの働き方は、プロジェクトベースです。
常にプロジェクトで働くため、プロジェクト体制上の管理者が、その時の直接的な上司になります。期間の長いプロジェクトであれば、プロジェクトの上司とうまくやっていく必要も多少はありますが、短いプロジェクトであれば、その時だけの上司なので、平気で突き上げや生意気を言ったりもしますし、時には、上司が使えないとその上の上司にクレームを上げたり、やってられない場合は、自分からプロジェクトを抜けるという選択肢も取り得ます。
組織上の上司もいますが、いわゆる一般的な会社で見られる上司に迎合することはあまりないと思います。


③ 高い内製化率
製品を持たないコンサルティングファームは、従業員が原資であり、従業員数=売上の世界なので、社員数の拡大を追求します。
そのため、システム開発プロジェクトでも、協力会社を使うよりも社員を使ってプロジェクトを組成する傾向があります。社員が足りなければ外部調達をすることになりますが、業績が右肩上がりの傾向の時は新卒も中途も大量に採用しているため、まずは内部での補充を促されます。
拡大路線による高い内製化率にプロジェクトベースの働き方も加わって、社員間での切磋琢磨と相対的に能力を見られる状況が多く発生することはファームの特徴のひとつです。
日本のSIerは終身雇用を意識して急激な拡大路線はリスクと考え、協力会社を使うことでレバレッジを効かせたビジネスを行う傾向が高いと思います。そのため必然的に外注比率が高くなり、特定な社員と働く状況が多くなると考えます。


④ 売れるかが評価のポイント
コンサルティングファームでは、「クライアントファースト」の文化が根強く残っています。
そのため、評価で何よりも強いアピールになるのは、クライアントの発言です。クライントの部長に気に入られているとか、キーマンとツーカーの関係だとか、クライアントとの関係性は非常に評価に繋がりやすく、クライアントの発言は絶対みたいな風潮があります。
これはコンサル案件に限らずSI案件でも同様で、結局は、クライアントに売れるという観点が、評価の根底にあるからです。
つまりコンサルティングファームでは、「高い技術力」より「売れる技術力」の方が評価されやすいことになります。


⑤ 営業職を兼ねる
昔のアクセンチュアにはそもそも営業職がなく、クラスが上がれば、皆が営業職を兼務するスタイルでした。今は少しいますが、日本のSIerとは比較になりません。
クラスが上がれば上がるほど営業力を求められるようになり、組織によってKPIに多少の違いはあるものの、どのような職種であれ売上が昇進の大きなインセンティブになることはファームの特色です。
これは、コンサルティング部門でもテクノロジー部門でもあまり変わらず、結局は、どれだけ売上に貢献できるか、どれだけ自分の力で売りを立てられるかが評価に繋がります。そのため、プロジェクトの拡大や次の案件の仕込みなどシステム開発PMにも営業目線がかなり求められることになります。

コンサルタントとシステム開発PMの違い

昨今、コンサルという職種が風呂敷を広げ過ぎていて、本来の役割ではなく、肩書のひとつになってしまったように感じます。本来のコンサルタントは、業界や業務に精通した知識を持って、クライアントの課題を見つけ出し、解決策を提示する役割だと思います。
課題も解決策も、クライアントが知らないこと、気が付いていないことに価値があります。クライアントが認識している課題に対して「これが御社の課題です」と言ったり、クライアントが考えつく解決策で「このソリューションがベストです」と提示したところで、何の価値もありません。知らないことを提供することに価値があるのです。
一方、システム開発プロジェクトのPMは実務的です。
クライアントのビジネスを成長させるための手段としてのシステム開発であり、ビジネス達成の目標に沿った計画をたて、計画通りにゴールに辿り着くことが求められます。

つまり、コンサルタントは、知らないことを提供することに価値があり、クライアントの想像の上を行く発想力が求められます。
一方、システム開発PMは、クライントの希望通りにゴールへ導くことに価値があり、効率的かつ合理性をもった実行力が求められます。
真逆とまでは言わないものの、求められるものには違いがあり、必要な能力が異なります。
在籍していた中堅の頃は、この違いに気が付きつつも、どちらも追求した結果、満足のできない、つまりバリューを出せない悩ましい時期もありました。

以前は、クライアントから指名で相談を受けるようになって、はじめて真のコンサルタントと言われたものです。追求する能力に違いはあれど、クライアントから指名されるという目指すべきところは、コンサルタントでもシステム開発PMでも同じことだとは思います。

コンサルとPM、どちらにも必須なスキルとは

コンサルタントが、ファンタジスタ的なアイデアを出しても、論理的に考えた実現性がなければ評価されません。一方のシステム開発PMもクライアントが考え付かない解決策に価値はありますが、実効性の方がより重視されます。
つまり、コンサルタントとシステム開発PMには、プロフェッショナルとして尖ったスキルは異なるものの、論理的な思考力と考えを伝える能力はどちらにも必須です。
ファームの社員をプロジェクトへアサインする時は、総合的に優秀かどうかで決まる傾向が強いです。この総合的に優秀として見られるスキルが、論理的思考力とクライアントコミュニケーション力の2つです。「賢いよ」「客と話せるよ」この2つの言葉で、ざっくり能力が判断され、アサインが決まります。


①論理的思考力
極めて高度な論理的思考力が備わっていれば、あとは方向付けをするだけで、それなりに仕事が進むということをマネージャーにもなれば経験上わかります。整理が苦手な人や考えが伝えられない人よりは、分かりやすく言語化できる人の方が仕事は確実です。
逆に言うと、俯瞰できない、構造化できない、計画というパズルを組めないような人は、どのようなプロジェクトでも苦労することがわかっています。
これは、コンサルティング案件に限らず、システム開発プロジェクトでも同じことです。

この論理的思考力を鍛えるのは、内向的な設計やプログラミングより、外向きなコンサルティングワーク、いわゆるパワーポイントなどの報告書や提案書などの資料作成の方が効率的に得られると思います。分かりやすさを追求してドキュメンテーションするには、構造化して優先度付けを行いポイントを絞るため、結果として論理的思考力が備わっていくのだと思います。逆に言うと、追求せずに資料を作成していたら、この能力は身に付きません。
プログラマーやSEの流れで上がってきたPMには、技術力は長けていても、道筋立てや整理がうまくない人がいます。プロジェクトがスムーズに進んでいる時は良いのですが、少しでも遅延したり課題が増えてきたりすると、とたんにコントロールできなくなってしまうのは少し勿体ないと感じます。


②クライアントコミュニケーション力
ここで言うコミュニケーション力とは、主にクライアントとの関係性です。プロジェクトを進めていく中では必ず何等か問題が発生します。そんな時は、正論だけではなく、あらゆる手段で解決策を模索することが求められます。泥臭い手立てやクライアントとの信頼関係に基づく、いわゆる寝技的な対応でも解決できさえすればどんな手段でも良く、そのために重要なのがクライアントとの関係性です。問題発生時に、クライアントから率直な意見をどれだけタイムリー聞け、感情に左右されない普通の会話が出来るかはとても大切です。

クライアントは超大手企業ばかりで、担当者もとても優秀な人達です。
中には、高給取りで偉そうなコンサルタントを毛嫌いしている人もいますが、そのようなクライアントと対峙してプロジェクトをうまく推進するには、とてもエネルギーが必要です。
昔は、彼は使えないから変えてくれというクレームがクライアントから普通にありましたが、その使えないと言われた人も一般的には普通以上の仕事力です。
クライアント担当者が、高いお金を払って委託するコンサルファームの人間に対して、自分よりも高い優秀さを求めてしまうのも理解できます。この期待値を下回らないために、具体的かつ簡潔に話せることは最低限必要なのです。

コンサルティングファームで生き残る人

コンサルティングファームでは、何をやりたいか、何が得意か、実力を示せているか、この3つが大切です。これらがないと、会社に便利に使われてしまい、悪く言うと、人によっては捨て駒のように扱われる可能性もあります。
炎上プロジェクトがあれば、とりあえず人をかき集める指令が出ますし、大規模案件のRFPが出たらその提案を手伝う要員が集められます。そんな時に真っ先に声がかかるのは、アベイラブルと呼ばれるプロジェクトに就いていない人達です。

要員が必要な場合、PMが社内で募集をかけて、候補者とジョブインタビューという面談をしてプロジェクトにアサインするかを決定します。形式的には、このような形を取りますが、実態は、優秀な若手の情報は聞き及びますし、「優秀な人の紹介は優秀」という遺伝子があるので、優秀な知り合いに人材の探りをいれたり、どうしても必要であれば一本釣りをすることもあります。そのため優秀な人は裏で取引されるため、そもそもアベイラブルになりにくく、常にプロジェクトに就いています。一方、一度でも優秀ではないと思われた人は、アベイラブルになりやすく、そうなると、炎上プロジェクトや提案に作業者としてアサインされることを繰り返し、まともな教育を施されることもなく、自分のスキルアップに繋がる仕事や責任のあるポジションを任されることもなく、数週間から数か月間という中途半端な期間のプロジェクトを渡り歩くことになってしまいます。これが繰り返されると、それこそ何のためにコンサルティングファームにいるか意義を見失ってしまうと思います。

コンサルティングファームで生き残るためには、なによりも評価され続けることが重要です。多くの人に優秀と評価されることで、その噂が社内で広がり、プロジェクトに引っ張りだこになるのです。
義務を果たした人が権利を主張できるのと同じように、評価された人はプロジェクトを選ぶ権利も含めて意思を主張しやすくなります。自分がやりたいプロジェクトか、目指すキャリアの方向性と合っているか、あの人の下で働きたいといった希望は、評価されてはじめて叶うようになるのです。

転職してきた人が、給料が上がったとか、キャリアアップしたとかで満足しても、それはあくまでスタートに過ぎません。
コンサルティングファームでは間口は広くあけていますが、会社からしてみたら、採用した中に優秀な人材がいればめっけ物くらいの感覚でいる可能性もあります。
昨今はさすがにホワイト化してきていますが、外資系であること、コンサルティングという人が原資の商売であることを考えれば、優秀ではない人をいつまでも優しく雇っていることはあり得ません。
ひとつのプロジェクト、ひとつのクライアントに長く従事しているということは、それだけパフォーマンスをクライアントから評価されているという解釈もできます。
プロジェクトに出来るだけ長くいるためにどうすべきかを考えて仕事に向き合えば、当然のように生き残り、ひいては希望通りに働けるようになると思います。

結局、最後は自分の武器で戦うしかない

それなりの年数コンサルティングファームで仕事をしていると、次々に優秀な人と出会います。そんな環境では、自分のポジショニングを考える機会も多くなりますが、行きつくところは漠然とした能力ではなく、キャラクターも含めた自分の武器が差別化の要因だと気が付きます。
クライアント企業に精通することも武器のひとつですし、特定の技術を極めることも、たまに素晴らしい事を言うことだって武器になります。
テクノロジー部門では、SI案件が主戦場となるため、いくつものプロジェクトでPMを歴任し、大規模プロジェクトの実績を引っ提げてMD昇進が見えてきます。そのため、テクノロジー部門の人の昇進の分岐点にあるのは、プロジェクトマネージャーとしての働きです。
PMではなく、いちテクノロジストとして追求していくなら、マーケットで認知される技術力を身に着けることが大切です。

MDを目指すなら、コンサルタントの「想像の上を行く発想力」とシステム開発PMの「効率的かつ合理性をもった実行力」のどちらの能力を尖らすかは非常に重要です。この違いを意識せず、仕事に向き合っていると、どっちつかずとなって、結局、昇進が停滞する可能性が高いです。
結局は、売り物としてクライアントに高く買ってもらえる「何か」を武器として持てるかどうかです。

まとめ

コンサルタントはファンタジスタ的な発想力を売りにしますが、私の知っている何人もの優秀なコンサルタントは、皆一様に極めて高い論理的思考力と普通に高いコミュニケーション力を持ち合わせています。
論理的思考力がないと、今ではパワハラ確実に「何を言っているのかわからん」とだけ言われてレビューは終わります。作った資料を5分で読まれて、わからんと言って破られるか、ゴミ箱に投げ捨てられるか、そのまま会議を去るという光景が、昔は、当たり前にありました。
訴求力がなくても、面白みがなくても、論理的思考力とコミュニケーション力があれば、なんとかなります。基礎を軽視せず、先のステージを見据えて、クライアントに評価され続けることだけを考えていれば、必ず良い結果が得られると思います。

イラスト:コンサルとPM、どちらにも必須なスキル

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