「クライアントと信頼関係は築けているか?」システム開発プロジェクトでマネジメントからよく言われる問いです。そんなことよりも仕事の中身の方が大切だし、結果出せばOKでしょ、と若い頃は思ってましたが、今では、これは間違った考えだったと思っています。
プロジェクトマネージャーの仕事は、進捗管理や収支計算などロジカルな作業だけではありません。急な依頼や度重なる仕様変更、時には理不尽とも思える要求をクライアントから受けることもありますし、開発品質が十分ではない状況では、難しい報告や謝罪をすることもあります。このような時には、クライアントとヘビーなやり取りが発生し、仕事としてある程度の線引きは出来るものの、お互い人間なので感情的になることもあり、それに真正面から対峙するプロジェクトマネージャーは体力的にも精神的にも結構大変で、逃げ出したくもなります。今回の記事では、クライアントとの信頼関係とはどういうもので、あると何が良いのかを解説し、参考として関係を構築するためのヒントも紹介します。
かんたんイラスト(記事を読む時間のない人へ)
信頼関係とはどういうものか?
信頼はビジネスの基礎として当たり前に必要ですが、システム開発プロジェクトにおいては、モノ作りに注力するあまり信頼関係の構築を疎かにしてしまうことがあります。システム開発における信頼は、品質や進捗といった仕事の本質を守ることと考えるのは間違ってはいませんが、正しくもありません。受託開発の場合は、発注者であるクライアントがいて、受託者の開発ベンダーがいるので、会社対会社の構図となりますが、実態としては、クライアント側のプロジェクト責任者と開発ベンダーのプロジェクトマネージャーの、人と人との関係性がとても重要です。もちろん会社間での話し合いが必要な場合もありますが、ある程度のことは、この両者の関係で収めることができます。
会社としての仕事である以上、会社の立場を意識してしまいますが、プロジェクトマネージャーはクライアント責任者との”人と人の関係”構築に注力すべきで、会社間の関係性は上司に委ねてしまうくらいの割り切りが必要です。プロジェクト推進だけでも大変なのに、そこにクライアント責任者との信頼関係を構築し、さらに会社としての立場も考えた関係を構築するのは極めて高度なことです。トラブルの際に会社を引き合いに出されたら「会社のことは良くわかりません、プロジェクトの範疇を超えることは上司に直接言ってもらえますか」と馬鹿なふりをして言ってしまうくらいで良いのです。
では、この”人と人の関係”とは、どういうものでしょうか。 この関係性には2種類あり、ひとつは、”仕事の働きを評価された信頼関係”で、もうひとつは”仕事を抜きにした人間関係”です。若い頃は、仕事の働きで評価されて、その結果として信頼関係が築かれるものと考え、仕事の中身ばかりにパワーを注いでいましたが、経験も能力も十分ではない人にとっては、この発想で関係を構築することはかなり大変です。今から思えば、逆の発想が必要だったと思っています。人として良い関係があるから仕事もうまくいくのです。
つまり、冒頭の「クライアントと信頼関係は築けているのか?」の問いには、仕事を抜きにした人間関係でもYESの答えにはなります。仕事でも評価されて人としても仲良くなれる方が良いに越したことはないですが、良好な人間関係だけでもプロジェクト推進の助けには十分なります。クライアントだから仕事上の付き合いと決めつける必要はなく、せっかくの出会いと考えて良い人間関係を築くことは、長い目で見ても良いことしかありません。
信頼関係があると何が良いか
では、”人と人の関係”があると、何が良いのでしょうか。
品質問題や進捗遅延などプロジェクトに問題が発生した場合、クライアントは原因究明と対策の報告を求めてきます。繰り返し問題を起こしていたり、炎上していたりするプロジェクトでは、既に信頼を失っているので、些細な障害や多少の遅延に対しても、いちいち要求があることも理解はできます。しかし、比較的に予定通りに進めているプロジェクトで一律求められたら遅々として進まなくなってしまいます。本来、状況と内容に応じた対応をクライアントと一緒に話し合って決めていくべきですが、関係を築けていないと、両者の会話もなく、あるいは聞く耳をもってもらえず、クライアントは問題の大小によらず厳しい対応を求め、プロジェクトマネージャーはそれに右往左往してしまうのです。
これは単にコミュニケーションの問題とも言えますが、信頼関係を築けていないからまともなコミュニケーションができないのです。仕事を抜きにした関係であっても”人と人の関係”が構築できていれば、会話の内容はさておき、少なくとも冷静に会話ができる状況には持ち込めます。冷静な会話が出来れば、解決に向けて前向きな話し合いができるため、無駄な時間や精神力を使わずに推進にパワーを向けることができます。またクライアント責任者とホットラインを持てれば、有事の際に速報ベースの報告や相談ができたり、現場レベルでうまくいかなことへの根回しや後方支援をお願いできたりと、先手の対応も可能となり、より円滑に推進できるようになります。
信頼関係の構築に役立つヒント5つ
出来れば仕事面の評価に基づく信頼関係が欲しいところですが、その信頼関係は仕事の結果として構築されるものと考えて、まずは仕事を抜きにした人としての関係性を築くことを目指すべきです。以下に関係構築に役立つヒントを紹介しますが、人によって得意不得意もありますし、相手の嗜好もあるので、できることをする、友達作りと同じようなものと思えば良いのです。
1.コミュニケーションをこまめに行う
クライアント責任者は、プロジェクトの進捗や品質について常々心配しているはずなので、安心させるために、なるべく密にコミュニケーションを取ることが大切です。例えば、クライアント先で打ち合わせがあった時には、責任者の席に行って挨拶をする、進捗状況や課題を30秒くらいで簡単に伝えるなどちょっとしたコミュニケーションでも構いません。定例会など公式の場だけでなく、非公式の場で、こまめな報告やコミュニケーションがあると、相手との距離が徐々に縮まり、良好な人間関係が生まれます。
2.ゴルフ、麻雀、スポーツ観戦
クライアント責任者がゴルフ好きであれば、一緒にラウンドするのも良いでしょう。同じ時間を過ごした体験は、思い出として残りやすく、素の性格も垣間見えるため良い関係を築くには有効です。麻雀もそのひとつです。また、クライアントがスポーツチームのスポンサーである場合には、そのスポーツ観戦に誘って、一緒に応援することでも親交を深められます。
3.飲みニケーション
年配者にとっては、飲み会によるコミュニケーションは健在です。飲みの場は、飲食しながら会話するため場が和みやすく、仕事の場ではできないような話題によって意外な一面も知ることができ、友好な関係性を作りやすいです。
4.ゲーム
以前関わったプロジェクトで、クライアントにゲーム好きなキーマンがいました。その方はとても気難しい人だったのですが、当時、陣取り合戦のようなゲームにハマっており、ゲーム好きの開発メンバーが同じゲームを始めたとたんに、そのキーマンと仲良くなっていったのを覚えています。同じゲームを一緒にプレーすることで親交を深められることもあります。
5.悩みを相談する
クライアント責任者が、年上で社会人経験も豊富な人の場合は、悩み相談するのも有りです。プロジェクトや仕事の内容に限らず、人生の先輩として自身のキャリアや結婚などのプライベートな相談をすることが良いでしょう。人は、頼りにされると嬉しいものなので、今まで以上の親近感を持ってもらえるはずです。
まとめ
仕事とはいえ全く好きになれない人と無理に関係を築く必要はありませんが、仕事だから厳しい事を言う人は多く、実はプライベートはとても楽しく優しい人だったという経験もたくさんあります。なので、仕事の表面だけ見て判断するのではなく、まずは相手を知りたいと思う気持ちが必要だと思います。プロジェクトの状況によっては、感情的な言い争いになることもありますが、そうなってから真摯に対応するよりも、事前に良い関係を築いておいて、トラブルになっても冷静に話し合えることが、円滑なプロジェクト推進をする上でとても大切です。仕事の中身で頑張ることはもちろん大事ですが、仕事を抜きにした関係性でも、無いよりもあった方が絶対に良いと、今では思っています。
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