20年くらい前、全国で利用している業務システムの刷新プロジェクトでチームリードを任された時、クライアント内でも有名な厄介なユーザーが南の方にいました。要件定義から基本設計の8か月間くらいは一回り以上も年上なその人とのコミュニケーションが多く、とんでもなく大変だったのを今でも覚えています。遠方のため、飛行機でその人の事業所に行くも会議になかなか出てくれない、参加しても決してYESとは言ってくれない、かと言って持ち帰り検討することも許してもらえず、今ではあり得ないであろう会議室にほぼ軟禁状態でした。ですが、時間の経過とともに、だんだん仲良くなり、ついには個人的な付き合いもするようになり、プロジェクトが終わった後には二人で旅行するまでになってました。
システム開発は、エンジニアが好き勝手にシステムを作れば良いわけではありません。クライアントの要望を予算内で期間内に実現することが必要で、そういう意味でシステム開発は、客商売でありサービス業です。迎合するようなサービスを提供する必要はありませんが、エンジニアは、思いやりをもってクライアントと向き合う必要はあります。
一方で、クライアントはシステム開発に理解がある人ばかりとは限りません。発注者の立場から横柄な態度をとる人もいて、やりにくい人に遭遇した経験は多くのエンジニアであると思います。そこで今回は、クライアントと上手くコミュニケーションを取るための心得について、私のセブンルールをお伝えします。
かんたんイラスト(記事を読む時間のない人へ)
やりにくいクライアント
開発エンジニアとクライアントでは、知識に大きな違いがあります。システム開発経験とIT知識はエンジニアが詳しいですが、業務に関しては当然クライアントが詳しいです。知識の違いに加えて、発注者と受託者の関係性からくる高圧的な態度や年齢差によるコミュニケーションギャップなど、開発エンジニアにとってやりにくいクライアントはよくいます。
・自社の用語を使う
クライアントは、部署名やシステム名など社内でのみ通じる略語や暗号的な呼び方など自社の用語を普通に使って話します。そのクライアントの仕事に従事した経験があれば多少はついていけますが、初めての場合は、はっきり言ってわかりませんし、独学では学びようもありません。確認しないと分からないので教えてもらおうとすると、「うちの会社のことを知らないでシステム作れるの?」と言われたこともあります。
・世代ギャップ
開発エンジニアは比較的に若い人が多いため、早口、小声、主語述語目的語の省略、簡略化した言葉を使いがちです。若者の言葉遣いやビジネスマナーが日頃から気になっている年配のクライアントにとっては、初めから良い印象を持っていないためマイナススタートです。
・高圧的な態度
「いいからやれよ!」「なんでこっちがやらないといけないんだ」いまだにこのような発言をするクライアントはいます。発注者意識なのか、丸投げ体質なのか、要件は伝えたからあとはよろしく的な考えが根底にあるのでしょうか。ぜんぜん協力的ではありません。
・面倒がられる
現行業務やシステム機能のヒアリングを行う場合、長年業務に携わっているクライアントにとっては、当たり前のことを説明するため、面倒に感じる人がいます。「こんなことも知らないのか?」という態度をとったり、情報を端折って話したり、露骨に面倒くさい顔をする人が、いまだにいます。
クライアントと上手にコミュニケーションする7ルール
開発エンジニアがこのようなクライアントに遭遇すると、苦手意識を持ってしまいコミュニケーションがうまくできません。プログラマーから設計や要件定義など上流を担うようになったエンジニアがぶつかる一つの壁かもしれません。システム開発を進める上で、クライアントとのコミュニケーションは避けられないので、何らかの対処を考えないといけませんが、論理的思考やSVO明確化などのテクニカルなコミュニケーションスキル以前に大切なことがあります。クライアントと上手にコミュニケーションするための心得を7つ紹介します。
1.奪う時間を減らす
コミュニケーションは相手の時間を奪います。
クライアントに対して、丁寧に、コミュニケーションの必要性や時間を頂く理由を説明するのは時に逆効果です。ビジネスにおいては、丁寧さよりも、なるべく相手の時間を奪わないようにすることに頭を使うべきです。例えば、現行業務ヒアリングであれば、事前に業務マニュアルをもらって読み込む、1日職場にお邪魔して観察させてもらうのも一つの手ですし、現行システムの仕様を知りたいのであれば、テスト機を自由に使わせてもらうのも有りです。クライアントの業務を知るための手段はヒアリング以外にも有るので、いきなりヒアリングの目的を説明するのではなく、「現行業務を知りたいのですが、どのようなやり方が一番お時間をかけないでしょうか?」と、クライアントに相談する方が優しさを感じます。ビジネスの有限な時間においては、コミュニケーションの時間は短ければ短いほど良いのです。
2.相手を思いやる
クライアントとはいえ、ひとりの人間です。プライベートでも思いやりのない人との会話が気持ちよくないように、ビジネスでも、好き嫌いはさておき、思いやりがないことは苦痛です。特に相手が年配者であれば、ゆっくり話す、大きな声で話す、資料の文字は大きくするなどは当たり前の礼儀ですし、「会議続きでお疲れではないですか?」など気遣いの言葉をおくことも優しさです。このような、相手を思いやったコミュニケーションをとることで、徐々に相手の感情が変わっていき、最初は厄介なクライアントだったとしても徐々に関係性が柔和になっていきます。システム開発プロジェクトでよく言われる「クライアントにも分かるような言葉を使って説明する」ことは、人として思いやるコミュニケーションが出来た後の話です。
3.正直である
いちいち質問すると面倒がる人はいますが、そういう人に限って、質問しないと本当にわかっているのか、わからないままでいいのかと逆に怒りだします。どんなに面倒がられようと、知らないことは正直に知らないと言って、教えてもらいましょう。たとえ、これまでに類似のプロジェクト経験があっても、その業務システムの専門家という体だったとしても、クライアント以上に業務に詳しいエンジニアはいません。たまに格好つけて知ったかぶりをしている人がいますが、逆効果なのでやめた方が良いです。ただし、当たり前ですが、同じことを2回聞いてはいけません。それだけ守っていれば、そのうち、いちいち確認しなくても会話が通じるようになり、ふとした時に、「すっかり業務のことわかるようになったね」と言われたりします。
4.基礎知識は勉強する
いくら正直に聞くと言っても限度はあります。ネットで調べたらすぐわかるような事や、その業界の本を読めばわかる用語や手法については、事前に学習し頭に入れておくことは礼儀として必要です。コンサル時代には、プロジェクトが始まる前に、業界本、クライアントの社長の本、過去のメディア記事などプロジェクトに関連する書籍を必ず10冊くらいは読むようにしていました。どれだけ仕事に役に立ったかはわかりませんが、クライアントとの飲み会の場で旅行の話題になり、「あそこは会社の創業地ですよね」と言うと、見られ方が変わったりすることもあります。
クライアントの業務を知るためには、新入社員向けの研修マニュアルやその部署のオリエンテーション資料をもらうことが手っ取り早いです。業務の基礎知識を勉強するためにどのような本を読めば良いかクライアントに聞いてみるというのも良いと思います。学習する意欲があると思ってもらうだけでも印象は大きく変わります。
5.教えてもらえることに感謝する
世の中の原則として、知識はお金を払って得るものです。ゴルフにしても陶芸にしても、学ぶためにはお金を払ってレッスンに行きます。要件定義や基本設計では、クライアントとの会話も多く、教えてもらうことも沢山あります。つまり、エンジニアは、お金をもらって業務知識を得ているのです。この異例さを理解して、クライアントが時間を割いて教えてくれることに感謝することが大切です。教えてもらって当然という気持ちだと、いつまでたっても歩み寄ることはできません。
6.お土産を仕込んでいく
ギブアンドテイクは、対等という意味ですが、ギブがテイクよりも先にあることが重要だと思っています。
コミュニケーションは、相手あってのことなので、自分だけ知識を得るのは対等ではありません。1回のコミュニケーションで双方メリットを交換する必要はありませんが、繰り返しのコミュニケーションでは、前回は良い情報を教えてもらったから、次回はこちらからとっておきの情報を教えることでも良いのです。
クライアントとのコミュニケーションでは特に、最初にこちらからギブすることが大切で、先にギブがあるからテイクが得られるのです。クライアントが知らない同業他社の事例や効率化手法なども良いですし、比較的フランクに会話ができる相手なら、スマホの使い方や便利なアプリ、おすすめの本やお店など仕事以外のネタでも良いです。お土産といっても物理的なものではなく、相手の知らないことを提供することが、コミュニケーションにおけるお土産です。会話の時間が有益であったとクライアントに思ってもらえてはじめて対等です。
7.仕事として割り切る
このように接しても厄介な人や理不尽な人はいます。そのような人に対しては、上手くコミュニケーションを取ることを諦めて、ロボットのように感情を持たずに接するしかありません。ストレスを溜めないためには、相手のことを、すぐに吠える犬とでも思って、感情を揺さぶられないようにすることも大切です。上手くコミュニケーションを取ることばかりに気を使い、体力も精神力を消耗して、本来のシステム開発業務が疎かになってしまったら本末転倒です。世の中には理不尽な人はいると開き直って考えることも時には必要です。
まとめ
仕事であろうとなかろうとコミュニケーションの本質は変わりません。礼儀やマナーもありますが、基本は思いやりです。これさえ守っていれば、最初は、厄介と思っていた人とも徐々にやりやすくなっていき、いつしか人として好きになって、結果として友達も増えて人生がより楽しくなります。冒頭に書いた20年前のクライアントは、私の価値観とコミュニケーションに変化を与えてくれて、いまでは本当に感謝しかありません。日常ではあまり出会わない年の離れた年配者と仲良くなれば、それこそコミュニケーションの幅が広がり、新しい発見があります。エンジニアにとってコミュニケーションは重要で、クライアント担当者だけではなく、同僚やチームリーダーなど様々な人とうまくコミュニケーションをする必要がありますが、コミュニケーションがうまくいかない人は、仕事として特別視しすぎているのかもしれません。仕事以前に人と人とのコミュニケーションであることに立ち返って考えることで気持ちや意識が変わり、クライアントとも上手くコミュニケーションできるようになると思います。
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